ステップアップゼミから学べ!
12年の教員生活、3人の子育て、今年、法人化を実現。目標は生涯現役。
趣味で始めた“自宅塾”は15年で法人化された。学習面のみならずしつけも併せた一貫教育を実践しようと、今年、新小学1年生を対象とした入学準備教室を開講する。“進取的”という形容がぴったりの塾長は、今後しばらくは会社経営に専念し、将来的には講演活動も視野に入れ、生涯現役、生涯教育畑を歩むことを宣言する。
自宅塾から教室へ踏み出す
新京成電鉄「三咲」駅近くは随所で小規模開発が見られる、いわば“これからの街”である。人口が増える前の前途有望な船橋市みやぎ台の一角にステップアップゼミはある。小学校から高校生までを対象とする進学塾で、地元4中学校のちょうど狭間にあって、85名の塾生のうち約7割が中学生である。
広い一戸建ての住宅を改築した教室を訪ねると、塾長の浅利美千代さんが溌剌たる印象で迎えてくれた。天性のものもあるだろうが、これまで歩んできた人生によって培われた意気転昴さがストレートに伝わってくる塾長だ。
小学校で10年、中学校で2年(理科を担当)の教員経験がある浅利さんのもとに、近所の母親から「算数をみてやってくれませんか」と頼まれたのは、およそ15年前のこと。このとき、小学生を預かったことがきっかけとなり、自宅で数人の小学生を週1回、90分というサイクルで教えた。4年生から通ってきたその子供たちが中学生になった時、優秀な成績が実証され次第に口コミで生徒は増えていった。
「数学と理科を教えるのが好きでしてね。偏差値を70くらいにするのが趣味でした」と、さらりと言ってのける浅利さんだが、実際はこの時、国語、英語、社会も一人で教えていた。1教室で同時に8人くらいの生徒が別々の教科をやっていても、それに一人で対応した。しかもこの時期、浅利さんは子育て中で、3人のお子さんのうち、末の娘さんは塾生よりも幼かったのだ。まさに、目も回るほどの忙しい日常を想像することができる。
徐々に生徒が増え始めたが、それにつれ問題も起きてくるようになった。「塾生の自転車の置き方が悪い」といった苦情を頻繁に受けるようになり、自宅近くに一戸建てを購入。趣味の自宅塾から本格的に学習塾経営へと看板を大きく変えたわけだ。「ここを買っちゃったら、もう、拡大するしかないですよね」と浅利さんはますますエネルギッシュな日々を送らざるを得なくなる。女性は覚悟を決めると持てる力を出し切ることができる。それまで40人ほどだった塾生は50〜60人に増えていった。
10年で変わった子供観
開塾から4〜5年の頃までは、どんな宿題を出しても塾生はきちんと仕上げて来ました。ところが、ここ10年ほどで浅利さんの目に映る子供たちは、次第に様変わりをした。「親が目をかけてられなくなったんですよ」と家庭でのサポート力の低下を浅利さんは嘆く。同時に学校での教育力の低下も指摘する。「学習指導要領の内容量削減に加え、全般的に教員の指導力が落ちている」と。「小学校教員時代にさんざん生活指導をしてきましたので、もうやりたくないというのが本音です。純粋に教科指導をしたかったのですが」と現実とのジレンマをのぞかせる。生活指導が家庭でも学校でも行われなくなり、塾にお鉢が回ってきた形だ。
地域の教育力の低下は、子どもたちの夢や目標の持ち方にも影響を及ぼしていると浅利さんは見ている。以前は率直に夢を語っていた子どもたちの口が重くなったことは、日ごろ、子どもを見ている者なら実感できる現象だろう。「学力を上げる指導以前に、何のために勉強するのか。誰のために勉強するのかといったカウンセリングから始めなければならなくなりました」と話す浅利さん。
同時に自身を持たせ、達成感を味わえるような指導が求められてきている。昨年、6月ステップアップゼミに一人の女子中学生が通塾することになった。不登校気味で保健室登校をしていた中3生である。ところが、この生徒にオーダーメイドの個別指導「あっぷシステム」を行った結果、ひと夏で16点だった数学の点数は80点に上がった。女子生徒はこのことをきっかけに教室にも入れるようになったという。浅利さんは保護者向けの便りで、この生徒のことを「今後、どこへ行っても頑張ることでしょう。この多感な時期、自分で成績を上げた達成感はその後の人生を変えるほどの力です」と紹介し、生徒の成長を喜んでいる。
ステップアップゼミでは8年前に吉備システムを導入。これにより“20点を80点に2ヵ月で上げる”ことは当たり前になった。しかも吉備システムをフル活用する「あっぷシステム」を導入することで授業を学生講師に任せることができ、自身は大局的な見地から塾を見渡すことができるようになったと評価している。
●指導のポイント
@塾生になぜ学ばなければならないのかを気付かせ、モチベーションを高めるためのカウンセリングを実施する。
Aオーダーメイドによる個別指導「あっぷシステム」を行うことにより、短期間で弱点を克服させ、達成感を持たせる。
入学準備教室を開設
3人の子育てを通して浅利さんは言う。「親は自分の子が小学校に入るまでは、何かやってくれるんじゃないかと期待しています。そう思わない親はいないと思います」と。ところが、学校へ行きだすと点数ばかりに目が奪われ「ダメじゃないの」を6年間言い続け、ついに子どもの自尊心を傷つけてしまうケースを何度も目の当たりにしてきた。中学校に進学する頃には子どもは自身を喪失し、そこから引き上げることが、いかに大変かを実感するのだという。
そういう現実を受けて、小学生から本格的に面倒を見ようという気になった。1月から小学校入学前の子どもたちを対象にした入学準備教室の開設がその具体例だ。鉛筆の持ち方からの指導が必要だが、教員時代に1年生学級を受け持った経験が生かされるのだろう。「わずか6歳の子どもでも語彙数が多い子は、その後の学力がどんどんついていきます。この段階から国語力をつけ、子どもたちが自身を持てるようにしたいんです」−
浅利さんが考える新しい展開は、常に子どもたちの内面、訴えの中を起点としているのがわかる。
現在、ステップアップゼミは12人の非常勤講師で運営されている。とりわけ5人の非常勤講師は全員母親で、PTA執行部経験者だという(浅利さん自身、PTAの研修部長としての経験がある)。そのため、子どもたちが置かれている状況を公立学校の内情や問題点と重ね合わせ理解することが自然にできるのだ。
ステップアップゼミでは、かつて“年季の入った”講師を高時給で雇っていたことがあった。だが、「指導経験のある方でしたが、自分のやり方に固執して、指導方法を変えてくれないんです」と浅利さんを悩ませた時期があった。現在、中学生の授業形態は前半に学生講師がグループごとに各教科の講義を行う。その後、個別指導システムを使っての演習を行うが、この時も学生講師が受け持つ。多感な時期の塾生にとって、年齢も近い講師との触れ合いは気がおけない存在であり、塾の雰囲気を活気づけるのかもしれない。浅利さん自身は小学校の授業を担当しながら、全体を見渡せるゆとりを確保している。
「あと10年くらいはバリバリ働きたいですね」
周辺の開発によって人口増が期待されるのは好条件だが、一方すでに駅前には栄光ゼミナール、一橋セミナー、明光義塾といった大手塾が進出している。今後、競争が激化することが予想されるが、ステップアップゼミの地域に根ざした強みをいかに生かしていくかが、鍵といえる。浅利さんと“お母さんスタッフ”の底力が試される時が迫っている。
母として、教師として、塾長として約30年に渡って子どもたちを見てきた浅利さんは、生涯、教育畑を歩みぬく覚悟である。塾経営とは別の目標として「各地で講演活動をしてみたいですね」とも話す。かつて浅利さん自身がPTA活動の一環で企画し開催した研修講演会のように、多くの保護者が浅利さんの話に耳を傾け、「目から鱗が落ちる」感覚を味わうのも、そう遠くないのではないか。そう感じたのはインタビューをした記者自身、子育ての本質を見せてもらった気がするからだ。
最後に「学習塾が今後できることは何でしょうか」という質問に「クォリティスクールのようなものができればいいですね」と。夢のあるところに道は開ける−この先生と話していると。そういう風に思えてくるのだ。
●経営のポイント
@地域に根ざした強みを発揮し、競合する塾との差別化を図る。
A目標を数字で表わし、達成のための布石を打っていく。
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